北海道の蒸気噴出事故
北海道蘭越町の、地熱発電井戸掘削における噴出事故から、1か月以上が経過しました。掘削事業者のHPには、謝罪は掲載されていますが、具体的な収束見込み等はまだ掲載されていません。
噴出により、当初から健康被害が報告され、有毒成分が広範に拡散されることにより、日常生活にも影響が出ています。様々対策法は検討されていると思いますが、温泉コンサルタントとして全国の温泉を手掛けてきましたので、現在考えられる事を記載します。
まず、蒸気井は、高圧、高温で蒸気が噴出しています。温泉でも、鳴子温泉などが有名です。蒸気井には「スケール」が付着しやすく、定期的に井戸を削孔しています。この時、天蓋を開けますと、当然蒸気が噴出します。その温度は、100℃を超えます。これを抑えるために、開蓋の前に、井戸内に水を入れます。これは、井戸内部に注水することで、温度を下げて噴出を防止します。注水圧力が低いと、井戸内には注水できません。水道圧は、0.2MPa程度ですので、この圧力で注水できない蒸気井は、水圧を上げて注水します。
注水管が細いと、圧力は上げられますが、水量がありません。注水管を太くしますと、水量は増やせますが、水圧はあげられません。水量がないと、蒸気井の噴出を抑えることができなくなります。
地熱発電は、蒸気井戸と還元井戸が必要です。地熱発電の基本原理は、蒸気井戸から噴出した蒸気でタービンを回して、発電します。タービンを回した蒸気は、還元井戸に戻します。
今回の地熱井戸掘削事故では、なぜ噴出を抑えることができないのか。それは、蒸気井戸内部に注水できないからです。高温、高圧で噴出し、ヒ素や硫化水土などの有毒成分も噴出している現状、作業員の健康も勘案して、なかなか取り組みができていないのだと思います。
高圧で大量に注水する。まずはこの方法です。斜掘して注水系統を確保する、という方法も併せて施工していくのが、早く噴出を止める方法です。
温泉のメンテナンスを直接行っている方に確認しましたが、「蒸気井を抑えるのは、なかなか難しい。やけどは何度もした。井戸に水が入っていかなくて」。噴出している蒸気の拡散対策は、屋根を作る方法がありますが、騒音の問題も出てきます。
地熱の専門家だけでなく、温泉の現場管理をしている方の意見も確認する必要があります。